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カデミー賞やゴールデン・グローブ賞の受賞式に出席する時、“今日は誰になろうかな?”って考えて、有名な絵の中の貴婦人になったり、ベニスの映画祭ではもちろん、ソフィア・ローレンになっていたし。そう、この間のアカデミー賞ではサージェントという映画のマダムXになりすましていたのよ。昨日のプレミア?ちょっと恥ずかしくて、とても名前など言えないわ。絶対にキイラ・ナイトリーで出て行かないことは確か。他人になりきることが小さい時から大好きで、それで女優になりたかったのですもの。みんなが注目する席に出席する時は髪とメークとドレスに加えて、その日のイメージの女性の役が必要なの。そうでなければとても出て行ってポーズしたり、コメントをしゃべったりできないわね。」

トロント映画祭では、「アトーンメント」と「シルク」の二本の主演作のプレミアがあり、久しぶりにエレガントにして、シンプルなドレスを着こなして登場し、周囲のよりグラマラスに着飾った女優たちの影をうすくしてしまったキイラ・ナイトリーはレッドカーペット用の“役作り”の秘密を打ち明けてくれる。「アトーンメント」(意味は償いとでも訳そうか)では一九三〇年代の英国の上流社会の令嬢をカモシカのようにのびのびと華麗に演じ、相手役になるジェイムス・マカヴォイと衝撃の図書室でのラヴメイキング・ポーズを見せてくれる。もちろんマカヴォイは料理人の息子で二人のロマンスは前途多難どころか、凄絶なまでに意地悪な妹のために戦争をふくんだ一大ロマン悲劇へと進展していく。ナイトリーの当時の流行の先端を行くデカダントにしてハイファッションのドレスや水着姿がまぶしいほどに美しい。「シルク」の方は一八五〇年代のフランス人の女性をしとやかに、切なく演じ、夫役のマイケル・ピットは遠く日本に良質のカイコを求めてたずね、結局、美しい芸者と恋に落ちてしまう、という、これも又、波乱にあふれた時代ものロマンである。
デビュー作とも言える「ベッカムに恋して」(03) のサッカー・ギャル役はともかく、「ジャケット」(04)、「ドミノ」(05) などでの現代の勇ましい女性役は今いち人気が盛り上がらず、ナイトリーの目下の“オハコ”は何と言っても時代劇(これを西洋では“衣装劇”と表現する)の淑女役に限ると言えよう。クラシックな顔立ちとペチャパイ、柳のようにひょろひょろとした肢体はドラマティックなドレスを着てこそ、千倍の魅力と効果が上がるのである。そういう現実からも、新作二作はナイトリーのファンにはたまらないはず。

さて、会見に現れた“英国の白いバラ”は黒ビロードに衿と袖口に白いレースがついた小公子、セドリックのような貴族の御曹司風スタイル、くるくると渦巻いた栗色の髪がこの中世風な服にグラマラスな女らしさをそえて、まさに目を見張る美しさにあふれている。ぺったんこの黒い靴がプリンセス・ラインのドレスにバランスを与え、センスの良さが強く感じられるが、当人は“スタイリストにおまかせなのよ! ”とあくまで謙虚なのだ。いくら専門家に任せても、ダサい人はどこかに鈍なところが見えてしまう。着こなしは生まれながらの感性がモノを言う、とキャサリン・ヘップバーンがのたもうていたが、まさにその通り。ツンとした鼻にキリリとした眉、知的に、時にイタズラっぽく光る黒い瞳、ムダな脂肪分が全く無い整った顔立ちは上流階級の女性にぴったりの外見だが、いざ話をはじめると現代ロンドンの若い女性の自己軽視のウィットがそこかしこにちりばめられ、独自の魅力にあふれている。「『アトーンメント』では、アクロバティックなセックス場面があって相手役のジェイムス・マカヴォイとまさに曲芸師のように不可能な体位に挑戦して。彼は天才的な俳優だから私もぐーんとレベルアップした演技が出来たと思う。『風と共に去りぬ』に似たグランド・ロマンスなのよ。シャネルの“顔”になったのは創始者のココ・シャネルの独立心に感銘したから。拒食症だのと言われるけれど7歳からスクリーンに出ている私の身体を見て。このひょろひょろボディーが私の自然な体型なのだから。」
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